【説明会編】
らんまポケは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の人事を除かなければならぬと決意した。
らんまポケにはESと面接がわからぬ。
らんまポケは、Fラン大学の住人である。
笛を吹き、ウェイやワンチャンと遊んで暮して来た。
けれども御社に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明らんまポケはFラン大学を出発し、野を越え山越え、十駅はなれたこの合同説明会の市にやって来た。
らんまポケには資格も、留学経験も無い。
TOEICの点数も無い。
とても偏差値の高く賢い、旧帝大卒の妹と二人暮しだ。
この妹は、野生の或る律気な東証一部上場の大企業を、近々、花婿として迎える事になっていた。
新入社員研修の予定が組まれるのも間近かなのである。
らんまポケは、一次選考の履歴書やら就勝！ボールペンやらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから企業の大路をぶらぶら歩いた。
らんまポケには竹馬の友があった。
セリヌンティウスである。
今は此の合同説明会の市で、就活生をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにらんまポケは、合同企業説明会の様子を怪しく思った。
誰もが笑っているはずなのに、どこかひっそりしている。
もう既に日も落ちているが、合同企業説明会は照明で明るいのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきならんまポケも、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が電車などに乗って、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。
若い衆は、首を振って
「オタク大学ポケモン部のらんまポケです！！貴重なお話ありがとうございました！この度聞かせていただいた経験を自らの就職活動に活かしていきたいと思っています！」
としか答えなかった。
しばらく歩いて院生の就活生に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
院生は
「らんまポケと言います。大変参考になるお話ありがとうございました。自らの研究分野を活かせる事業内容と企業理念に共感し、さらに御社への関心が高まりました。」
としか答えなかった。
らんまポケは両手で院生のからだをゆすぶって質問を重ねた。
院生は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「就活は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「面接対策を欠いている、というのですが、誰もそんな、面接対策を知っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめはエンジョイ勢のらんまポケを。それから、OpenESのらんまポケを。それから、一次面接のらんまポケを。それから、テストセンターのらんまポケを。それから、二次面接のらんまポケを。それから、適性検査のらんまポケを。」
「おどろいた(?)。御社は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。内定を、手放す事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく高い給与をしている者には、給与ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば残業にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、らんまポケは激怒した。
「呆れた御社だ。生かして置けぬ。」
らんまポケは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ企業説明会にはいって行った。
たちまち彼は、人事部の採用担当に捕縛された。
【面接編】
調べられて、らんまポケの懐中からは他社のパンフレットが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
らんまポケは、社長の前に引き出された。
「このパンフレットで何をするつもりであったか。言え！」
暴君ディオニス執行役員は静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。
その顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「御社が第一志望です。」
とらんまポケは悪びれずに答えた。
「弊社がか？」
王は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの(就活生を泣く泣く選考から落とすという建前の)孤独がわからぬ。」
「言うな！」
とらんまポケは、いきり立って反駁した。
「就活生の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、就活生の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、就活生たちだ。弊社の内定は、あてにならない。就活生は、内定辞退の塊さ。信じては、ならぬ。」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息ためいきをついた。
「わしだって、志望動機を望んでいるのだが。」
「なんの為の志望動機だ。やり甲斐とやらを守る為か。」
こんどはメロスが嘲笑した。
「誰でも出来る仕事に、何が志望動機だ。」
「だまれ、Fランの者。」
王は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の志望動機の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、""ボランティアの話は嘘でした""と泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、御社は利口だ。自惚ぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ───」
と言いかけて、メロスは手元のエントリーシートに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、お祈りメールまでに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で内定式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「えっそれは…」
と暴君は、嗄しわがれた声で低く笑った。
「とんでもなく意味不明な事を言うわい。お祈りした就活生が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです(必死)」
メロスは言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンマイナビという商社マンがいます。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を退社させて下さい。頼む、そうして下さい。」
それを聞いて王は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。
「願いを、聞いた。面接を終了します。結果はリクナビの方からメールでお伝えいたします。返信が遅れたら、その身代わりを、きっと殺すぞ。ちょっと遅れて来るがいい。おまえの内定は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
意味がわからないし飽きたので終わります
